Macユーザに SILKYPIX はおすすめできない
価格面だけでAdobe LightRoomの代替と考えるのはおいしくないかもしれない。
TL;DR
Windowsコンピュータを所有しない純粋 Mac ユーザは SILKYPIX Developer Studio Pro シリーズを買う前に知っておくべきリスクがある。これを知らずに買うと、その後きっとSILKYPIX開発元を恨めしくおもうことになる。
- 購入したSILKYPIX があなたの Mac で使える期間は最長2年。
- デュアルブート環境もしくは仮想環境を構築することで延命できるが、今後 M1 (ARM) チップの Mac に移行するとそれらも難しくなるかもしれない。
もくじ
- TL;DR
- もくじ
- SILKYPIX とは
- SILKYPIX とくに Developer Studio Pro シリーズのサポート期間は事実上1年半
- 有償アップグレードを視野に入れると3年で3万円、4年半で4万円
- どうしても Macで旧いSIKLYPIX を使い続けたい人への提案
- 締め
SILKYPIX とは
SILKYPIX は、ミドルクラス以上のデジカメでRAWという方式で記録された画像データを、画品質を細かくカスタマイズしながらJPGに変換する (この操作をRAW現像という) ためのソフトウェア。
RAW現像ソフトウェアのデファクトスタンダードは Adobe Lightroom だが 、同ソフトウェアは2017年10月以降はサブスクリプションによる課金に一本化された。執筆時現在、980円/月 の料金で利用できる。ちなみにこの料金で1TBのストレージサービスもついてくる。
話は逸れる。デジカメ関連の雑誌は数あれど、RAW現像の話題に触れるときはみんなほぼ横並びでLightroomしか取り扱わない。不思議なほど各誌この姿勢は徹底している。RAW現像の魅力を伝えるべき媒体がそんな内向きのスタンスだから市場の裾野が広がらず結果的にパイが縮小したんじゃないのか、と悪態をつきたくなるのは自分だけではないはずだ。
話を戻す。熱心な写真愛好家にとって Lightroom はお手頃で良い選択だが、もっとカジュアルにRAW現像を楽しみたいだけの人にとってこのサブスクリプションはやや高価に感じてしまう。旅に出れず写真を撮らないような期間にも料金が発生するからね。
そこで買い切り型のRAW現像ソフトウェアはどうだろうと探すと、日本市場には SILKYPIX という選択肢がある。
RAW現像アプリ界隈では近年 RawTherapee や darktable などのフリーソフトウェアがバージョンを重ね洗練されてきているが、これらに比べてもSILKYPIXは作品の官能面においてまだ頭一つ二つ抜き出ていると認めざるをえないほど、とても優秀なエンジンを有している (ただし和製アプリの常として、ユーザインタフェースについては評価が分かれる) 。
22,000円というものすごく高価なアプリだが、1回買い切りであることを考えれば長期間つかうという前提で Lightroom よりも安く済みそうに思える。
実際そのとおりなのだが、Mac ユーザにはウェブサイトで明かされていない落とし穴がある。
SILKYPIX とくに Developer Studio Pro シリーズのサポート期間は事実上1年半
ここしばらくのDeveloper Studio Pro シリーズのリリース日は次の通り。カッコ内は最新版の座にあった期間。
- 2014/06/30 Pro6 (6.5ヶ月)
- 2015/01/15 Pro7 (29ヶ月)
- 2017/06/16 Pro8 (15ヶ月)
- 2018/09/19 Pro9 (17ヶ月)
- 2020/02/19 Pro10
SILKYPIX開発元は同アプリの最新版のみをサポート対象としている。つまり、あなたが同アプリを買ったあと、次のバージョンがリリースされてしまえば、あなたの所有しているSILKYPIXがアップデートされることはもうない。
ここしばらくは2年を経ずに新シリーズをリリースしているので、SILKYPIXの実質サポート期間は1年半だと言ってもよいだろう。外挿計算すると2021年夏あたりにPro11がリリースされるんかなという推測もできる。
一方で。
MacOSは毎年秋にアプグレが来る
ご存知のとおり。
MacOSのアプグレにはセキュリティ更新を含むうえ、新iOS対応も含む。ほとんどの個人ユーザーはMacを iPhone/iPad の母艦として使用しているわけだから、MacOSをアップグレードしないわけにはいかない。無料だし。
WindowsOSの場合、メジャーアップグレードには5年程度のインターバルがある上に有償で高価なのでアプグレを後回しにすることも多く、結果的に次に述べるような問題は顕著には起こらないんですね。
サポートの終了したSILKYPIXは MacOSアプグレによって引導を渡される
上にも書いたとおり、SILKYPIX 開発元は最新版のみをサポートする方針をとっている。
おわかりですね。
サポートの終了したSILKYPIXは MacOSアプグレによって完全に使えなくなってしまう 可能性がある 。新MacOSがマイナーアップデートだった場合はそのまま問題なく使えることもある。いかんせんアップデートの内容次第で、SILKYPIX購入時点で予測することはできない。
Catalina の直後に大きなアップデートはないと思っていた
わたしの場合、MacOS Catalinaでわりと大きなアップデート (32ビットアプリの完全廃止) が来たのでしばらく大きなアップデートはこないだろうという読みで SILKYPIX を買ったんですが、1年後 Big Sur というここ20年で最大のビッグウェーブが来ちゃった。購入後1年あまり、実使用回数が数回程度で使えないアプリになってしまいました。
有償アップグレードを視野に入れると3年で3万円、4年半で4万円
幸いSILKYPIXには有償アップグレードのオプションが用意されている。Pro8/9のユーザであれば8800円の追加出費で次のPro10にアップグレードできる。この出費でBig Surの大波に乗ることもでき、もう1年半は使い続けることができる。
合算すると、3万円で3年。
いやちょっと待て。Lightroom を3年サブスクしたとすると3.6万円で、これには1TBのクラウドストレージもついてくる。Google Photoの無料大盤振る舞いが終了しようとしている今、1TBものストレージはとても魅力的に映る。
サブスクを嫌って買い切りソフトを選ぶのに、この価格はあまり有利でないのではないか、という疑問が浮かぶ。
有償アプグレ前提で4〜5年以上使うことを想定すればようやく価格面でSIKLYPIXの有利が際立ってくる感覚ですかね。
結論。Mac で使う場合はそれほど安くならない。
どうしても Macで旧いSIKLYPIX を使い続けたい人への提案
上のような事実をしらずにSIKLYPIXを買ってしまったが、サポート終了後もどうにかして使い続けたい、もしくは金はないがSIKLYPIXの描画の大ファンなのでリスクを承知で突っ込みたい、という方への提案。
以下の方法で延命は可能。
- VirtualBoxやVMWare Fusionなどを利用して仮想環境を構築する
- 外部ドライブに2つ目のブート環境を構築する
ただしあなたのMacがIntelチップ版であることを想定しています。後にも少し触れる通り、Apple M1以降のチップを搭載するMacについてはまだよく見えていません。
やり方を一々紹介しないかわりに、ここでは知見をいくつか残す。
方法1 VirtualBox や VMWare Fusionなどを利用して仮想環境を構築する
仮想環境を作ってしまえばMac本体のOS (ホストOS) を最新に更新しつづけても、旧いOS環境を保持しつづけることができる。
これから仮想環境を作るのであれば VMWare Fusion がおすすめ。このアプリも MacOS のバージョンに強く依存し、かつては SILKYPIX 同様に MacOS アップグレードのたびに有償アプグレを検討しなければならなかったが、Ver12 より個人使用に限って無償となった (Mac向けに個人向け無償版を追加 ~「VMware Workstation 16」「VMware Fusion 12」が正式公開 - 窓の杜) ので、アプグレのタイミングに関する悩みから解放された。
仮想環境SILKYPIXの長所
- ホストOSアップグレードの影響を受けない。
- ホストOSとゲストOSを同時に使うことが可能。
- ホストOSのファイルシステムにゲストOS側からアクセスできる。
- Windows OS のライセンスを持っていれば、Windowsの仮想環境下でWin版 SILKYPIX を使用することも視野に入る
- Mac 本体を買い換えても仮想環境は可搬、だった (過去形)
仮想環境SILKYPIXの短所
■ パワフルな Macハードウェア が必要。
RAM
SILKYPIXはリソースバカ食いのアプリなので、16GB以上のメモリを搭載したMac上でゲストOS側に8GB を割り当てる 運用が望ましい。もちろん The more, the better だが、ホスト側OSのメモリを小さくしすぎるとホスト側が死んで共倒れになる。
ストレージ
VMWareを使う場合、ゲストOS側にRAWファイルを置かない前提でも 仮想環境は50GB程度の記憶容量を費消することを想定しておこう (Mojaveをゲストとした際の経験値; やや余裕を持たせている) 。Windows10 ProをゲストOSにする場合は35GB程度は想定しておこう。
ただしホストOSをヘルシーに使い続けるには、特にXCodeをインストールしている場合はドライブの残容量はつねに20-30GBほど空けておきたい (さもないとOSアップデートがうまくいかないときがある)。そうなると内蔵ドライブだけでは厳しいかもしれない。
外付けドライブの導入はとても良いアイデアだが、HDDだと遅すぎて精神が死ぬ。無理をしてでもUSB3.1接続のSSDを最小構成として考慮したい。SILKYPIX専用だと割り切れば80GBの小さなSSDでも十分。
ということでメモリとストレージは強いものである必要がある。最小構成のMacでは (不可能ではないとはいえ) 難しい。
■ Apple M1チップ版Macでの対応は悲観的
おそらく仮想化ソリューションを取り扱うVMWare/Parallels/VirtualBoxなどの各社は今ごろApple M1チップ対応を研究しているだろうけど、異なるCPUアーキを跨ぐ仮想環境ソリューションなんて実現できるとは思えない。
そういう意味で、いま作った仮想環境は次のMac買い替えで使えなくなることを想定しておきたい。
方法2 外付ドライブに第2環境を構築する
Mac は Windows とは違い、外付けドライブにOSをインストールし、これを起動ディスクとして選ぶことができる (Macの起動ディスクを変更する - Apple サポート)。
これを利用すれば別ドライブにサブ環境として旧いOSを維持し、SILKYPIXを使うときだけコンピュータを再起動するという運用が可能になる。
第2環境でSILKYPIXを使う長所
- Macのハードウェアリソースを最大限利用することができる
- 最安構成のMacbook Air でもSILKYPIXを使うことが可能
第2環境でSILKYPIXを使う短所
- 外部ディスクが必要なので、お買い物が発生する。
- 環境構築までに割と手間がかかる。
- RAW現像をするたびにシステムを再起動しなければならない
- 上述のとおり。
- 第1環境のファイルシステムにアクセスできない
- Raw現像の前後で、RAWファイルやJPGファイルを第三のストレージを介して移動しなければならない。
- Apple M1チップ版Macの場合は、BigSur以前の OS は使えない。
締め
ケータイカメラは年々画質が向上しているし、デジカメ市場は縮小しているし、RAW現像アプリ業界は苦しいよね。